野球をやっている人でも多分うまく説明できないルールの一つがファウルチップではないでしょうか。
ファウルチップはファウルフライとどう違うのか。なぜファウルチップなんていうルールがあるのか。
今回は、ファウルチップのルールとその背景について説明します。
ファウルチップの定義
ファウルチップとは何なのか。まずは公認野球規則の定義を見てみましょう。
公認野球規則 定義34 FOUL TIP「ファウルチップ」
打者の打ったボールが、鋭くバットから直接捕手に飛んで、正規に捕球されたもので、捕球されなかったものはファウルチップとはならない。
ポイントは2つ。
- バットから鋭く捕手に飛んで
- 捕手に正規に捕球されたもの
捕手が捕球できなければファウルチップとは言いません。
しばしば、下の動画のような「バットから鋭く後ろに飛んだ打球」をファウルチップと表現する事例を見かけますが、厳密にいうとこれはファウルチップではなく、ファウルボールです。
ファウルチップはストライクであり、ボールインプレイです。空振りと同じルールで、ストライクが1つ増えます。
- チップしたボールを捕手が正規に捕球できなかったときは、ファウルボールで、ボールデッドです。2ストライクまでは、ストライクカウントが1つ増えます。
ちなみに、「ファウルチップと判定した」ことを明確に示すために、球審が左手で拳を作ってその上方を右手の手のひらでこするジェスチャーをすることがあります。
正規に捕球とは?
ここでもう1つ確認しておきたいルールがあります。
正規の捕球、つまり「キャッチ」とはどういうことなのでしょう。
これも、公認野球規則に定義があります。
公認野球規則 定義15 CATCH「キャッチ」(捕球)
野手が、インフライトの打球、投球または送球を、手またはグラブでしっかりと受け止め、かつそれを確実につかむ行為であって、帽子、プロテクター、あるいはユニフォームのポケットまたは他の部分で受け止めた場合は、捕球とはならない。
つまり捕手がバットから鋭く飛んできた打球を、手またはグラブでしっかり受け止めたときだけ「ファウルチップ」となるということです。
ファウルチップの定義の変遷
実は、2020年の公認野球規則までは、ファウルチップの定義は少し違っていました。
打者の打ったボールが、鋭くバットから直接捕手の手に飛んで、正規に捕球されたもので、捕球されなかったものはファウルチップとはならない。ファウルチップはストライクであり、ボールインプレイである。前記の打球が、捕手の手またはミットに触れておれば、はね返ったものでも、捕手が地面に触れる前に捕えれば、ファウルチップとなる。 【注】チップしたボールが、捕手の手またはミット以外の用具や身体に最初に触れてからはね返ったものは、たとえ捕手が地面に触れる前に捕えても、正規の捕球ではないから、ファウルボールとなる。 |
初めに捕手の手またはミットに触れたら、はね返ったものを地面に落ちる前に捕ればファウルチップ。しかし、ミット以外のプロテクターやマスク、手以外の身体に当たってはね返ったものは、地面に落ちる前に捕ってもファウルボール。
……というのが、2020年までのルールでした。
2021年の公認野球規則改正で、次のように変わりました*1。
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打者の打ったボールが、鋭くバットから直接捕手の手に飛んで、正規に捕球されたもので、捕球されなかったものはファウルチップとはならない。ファウルチップはストライクであり、ボールインプレイである。前記の打球が、捕手の手またはミットに触れておれば、はね返ったものでも、捕手が地面に触れる前に捕えれば、ファウルチップとなる。 【注】チップしたボールが、捕手の手またはミット以外の用具や身体に最初に触れてからはね返ったものは、たとえ捕手が地面に触れる前に捕えても、正規の捕球ではないから、ファウルボールとなる。 |
「手」という表現や、【注】がなくなったことで、プロテクターやマスクからはね返ったものも、地面に落ちる前に捕ればファウルチップとなりました。
実例:これはファウルチップ
2ストライクからなので、捕球すれば三振で打者アウト。落とせばファウルボールで打者は打ち直しなので、ファインプレーです。
ちなみに、2ストライクでないときは、ここまで必死に捕りに行かなくてもかまいません。(落としてもストライクカウントが増えるだけなので……)
ファウルチップはファウルフライと何が違うの?
飛球(フライボール)は、公認野球規則にこのような定義で書かれています。
公認野球規則 定義29 FLY BALL「フライボール」(飛球)
空中高く飛ぶ打球をいう。
……あいまいですね。
ファウルチップと飛球の違いを考えるならば、このようになります。
- 「バットから鋭く、直接捕手に向かって飛んで」きているものがファウルチップ。
- 直接捕手に向かって鋭く飛んできていない、「空中高く飛ぶ打球」がファウルフライ。
つまりは、バットから飛んできたボールの軌道で判断することになります。
「ファウルチップ」は鋭く直線的に捕手に飛んできます。一方「飛球」は、このように放物線の軌道を描きます。
このような基準をもとに、最終的にそれを「ファウルチップ」と判断するか「ファウルフライ」と判断するかは審判員の判断によります。
なぜファウルチップというルールがあるのか
ファウルチップというルールがない場合、バットに当たって直接捕手が捕球した打球はファウルフライとなります。すると、フライが捕られたのですから、盗塁しようとしていた走者は投球当時の塁に戻らなければなりません。
しかし、走者から見てファウルチップは普通の空振りとほとんど区別がつきません。これでは走者に著しく不利です。
ファウルチップは通常のストライクと同じで、ボールインプレイ。そうすれば、走者は帰塁することなく盗塁が認められます。
一方、捕手は、完全に投手が投球動作を盗まれたとき、(そんなことをするかどうかわかりませんが)チップしたボールをわざと落とすとファウルボールになるので走者を戻すことができます。
まとめ
俗称的に、バットから鋭く後方に向かって直線的に飛んだものを「ファウルチップ」と呼んでいることが見られますが、「ファウルチップが球審に直撃した」「ファウルチップがバックネットに飛んだ」という言葉は本来は誤り。
ファウルチップは、チップしたボールを捕手が正規に捕球できたもので、ルールとしては通常のストライクと同じです。
また、2021年のルール改正から、チップしたボールが捕手のミットやプロテクター、マスクに当たってはね返ったものも、地面に落ちる前に捕ればファウルチップです。ぜひ、正しい用語を使って、正しいルールを身につけてくださいね。