numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

観客が試合を妨害!?ルール上はどうなるの? - World Series 2024

ドジャースヤンキースワールドシリーズ2024では、観客が試合を妨害する事象が2つ発生しました。

全力でプレイしている選手を妨害するなどあってはならないことなのですが、実際に起こってしまった場合、ルール上どのような措置になるのかについて、公認野球規則の記述をもとに解説します。

観客が試合を妨害した場合のルール

公認野球規則では「観衆の妨害」という用語で記載されていますが、観客が試合を妨害した場合について規定されています。

公認野球規則6.01(e) 観衆の妨害

打球または送球に対して観衆の妨害があったときは、妨害と同時にボールデッドとなり、審判員は、もし妨害がなかったら競技はどのような状態になったかを判断して、ボールデッド後の処置をとる。

【規則説明】 観衆が飛球を捕らえようとする野手を明らかに妨害した場合には、審判員は打者に対してアウトを宣告する。

【原注】 打球または送球がスタンドに入って観衆に触れたら、たとえ競技場内にはね返ってきてもボールデッドとなる場合と、観衆が競技場内に入ったり、境界線から乗り出すか、その下またはあいだをくぐり抜けてインプレイのボールに触れるか、あるいはプレーヤーに触れたり、その他の方法で妨げた場合とは事情が異なる。後者の場合は故意の妨害として取り扱われる。打者と走者は、その妨害がなかったら競技はどのような状態になったかと審判員が判断した場所におかれる。

野手がフェンス、手すり、ロープから乗り出したり、スタンドの中へ手を差し伸べて捕球するのを妨げられても妨害とは認められない。野手は危険を承知でプレイしている。しかし、観衆が競技場に入ったり、身体を競技場の方へ乗り出して野手の捕球を明らかに妨害した場合は、打者は観衆の妨害によってアウトが宣告される。(後略)

第1戦の「ホームランキャッチ」は…?

ワールドシリーズ2024第1戦の9回表、ヤンキースの攻撃。グレイバー・トーレスが左中間に大飛球を放ちましたが、この打球をスタンドにいた観客が身を乗り出して捕球しました。

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審判員の見慣れないジェスチャーですが……?

審判員が頭上に左手で拳を作り、右手で左手首をつかむジェスチャー。これは、「観衆の妨害」があったことを示すもので、野球においては世界共通のジェスチャーです。

「観衆の妨害」があったときは妨害とともにボールデッドとなるので、審判員はこのジェスチャーの前に、両手を大きく広げて「タイム」を宣告して、続けてこのジェスチャーになるのが一般的です。

こういう時は、どういう処置になるの?

先ほど示した規則6.01(e)に記載の通り、「観衆の妨害」があったときは、審判員は、もし妨害がなかったら競技はどのような状態になったかを判断して、ボールデッド後の処置をとります。

映像で確認してみると、観客が打球を捕った位置はスタンドのフェンスよりもグラウンド側でした。

明らかにスタンドに入る打球ならば観衆の妨害があってもホームランとなることはありえなくもないのですが、この打球は、ホームランなのかフェンス直撃なのかは見極めが困難です。

結論として、審判団は"ground rule double"(エンタイトル2ペース)として試合を再開しました。

なお、この直後に「ホームランキャッチ」をした観客は係員によって退場させられました。

第4戦 ベッツのグラブから観客がボールを奪う行為は…?

ワールドシリーズ2024第4戦の1回裏、ヤンキースの攻撃。グレイバー・トーレスがライト側ファウルスタンドのフェンス際に飛球を放ち、ドジャースのムーキー・ベッツがスタンド側にグラブを出してこの飛球を捕ろうとしました。

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ベッツが打球をつかんだ後に観客の一人がベッツのグラブをつかんでこじ開け、もう一人の観客がベッツの右手をつかんで離さず、最終的にベッツのグラブからボールが取り出されました。

審判員は「観衆の妨害」を宣告。

このプレイの処置として、審判員はベッツの捕球を認め、トーレスはアウトとなりました。

しかし、妨害をした観客が何かを主張しています。

「妨害」のあった場所がどこだったか?

観客の主張している様子を見ると、野球規則で定めているあることを主張しているように見えます。

実は、野手がスタンドの中に手を伸ばしてプレイをするのを妨げられるのと、観客がスタンド付近で選手のプレイを妨げるのとでは、事情が異なるのです。

どうやらこの観客、ルールを知っていて主張しているように感じられます。

 

公認野球規則5.09(a)(1)

【原注2】 ……野手はフェンス、手すり、ロープなど、グラウンドと観客席との境界線を越えた上空へ、身体を伸ばして飛球を捕らえることは許される。また野手は、手すりの頂上やファウルグラウンドに置いてあるキャンバスの上に飛び乗って飛球を捕らえることも許される。しかし、野手が、フェンス、手すり、ロープなどを超えた上空やスタンドへ、身体を伸ばして飛球を捕らえようとすることは、危険を承知で行うプレイだから、たとえ観客にその捕球を妨げられても、観客の妨害行為に対してはなんら規則上の効力は発生しない。(後略)

公認野球規則6.01(e) 観衆の妨害

【原注】 ……野手がフェンス、手すり、ロープから乗り出したり、スタンドの中へ手を差し伸べて捕球するのを妨げられても妨害とは認められない。野手は危険を承知でプレイしている。しかし、観衆が競技場に入ったり、身体を競技場の方へ乗り出して野手の捕球を明らかに妨害した場合は、打者は観衆の妨害によってアウトが宣告される。(後略)

観客が「ベッツがスタンドの中に手を伸ばしてプレイをしている」ところを妨げたのであれば、この規則の通り、野手は危険を承知でプレイしているとして、捕球を妨げられても妨害とは認められません。しかし、ベッツのプレイに対する妨害が始まった瞬間をよく見てみると……

観客が主張するように、ベッツがスタンドの中にグラブを差し入れてプレイしているようには見えず、むしろ、観客が身を乗り出してベッツのグラブや腕をつかみ、スタンド側に引っ張り込みながらグラブをこじ開ける行為に及んだように見えます。

この観客の行為は、選手にけがを負わせる可能性のある危険な行為であり、審判員は当然「観衆の妨害」を宣告すべきで、適切な対応だったと言えます。

なお、この2人の観客は警備員によってヤンキースタジアムから退場させられ、第5戦は入場禁止、所有しているチケットに関しては払い戻しがされたとのことです。

おまけ こういうルールもあります

最終回の裏でサヨナラゲームとなる瞬間に観客がグラウンドに乱入してきて選手が得点しようとするのを阻止するようなことがあったら?

規則5.08 得点の記録

(b) 正式試合の最終回の裏、または延長回の裏、満塁で、打者が四球、死球、その他のプレイで一塁を与えられたために走者となったので、打者とすべての走者が次の塁に進まねばならなくなり三塁走者が得点すれば勝利を決する1点となる場合には、球審は三塁走者が本塁に触れるとともに、打者が一塁に触れるまで、試合の終了を宣告してはならない。

【原注】例外として観衆が競技場になだれこんで、走者が本塁に触れようとするのを、または打者が一塁に触れようとするのを肉体的に妨げた場合には、審判員は観衆のオブストラクションとして走者の得点または進塁を認める。

もし、観客の妨害にあって、現実的に走者が本塁に触れられなかったり、打者走者が一塁に触れられなかったりした場合は、審判員は観衆のオブストラクション(走塁妨害)を宣告して進塁を認めることとなっています。

これらのルールのポイントは、「もし妨害がなかったら競技はどうなったか」を判断して、妨害を受けたチームの不利益を取り除く、という考え方です。

球場で観戦する皆さんは、自分の席で落ち着いて観戦し、くれぐれもプレイしている選手の妨げにならないようにしましょう。