2024年10月8日、ナ・リーグ地区シリーズ第3戦 パドレス対ドジャースの試合で起こったマチャド選手の走塁は、「守備妨害」だという批判や「頭脳的走塁」と評価する意見など、さまざまな反応が起こりました。
あの走塁はスリーフィートオーバーにならないのか?ルール的に認められるのか?という疑問も多く挙げられているようなので、関係するルールを解説しながら、この走塁について解説していきたいと思います。
- まずはプレイを見てみましょう
- 内野内に入り込む走塁は許されるのか?
- 守備妨害にはならないのか?
- 送球を「故意に」妨げたかどうか?
- 送球が走者に当たった結果、守備妨害が宣告された事例
- マチャドの走塁はルール的にOKということか?
まずはプレイを見てみましょう
2回裏パドレスの攻撃で無死一塁。打者メリルの打球をドジャース一塁手のフリーマンが横っ跳びで処理して二塁へ送球。しかしこの送球が一塁走者のマチャドに当たり、レフト方向に逸れてしまいました。
内野内に入り込む走塁は許されるのか?
このときのマチャドの走塁コースは、図示すると下の図の矢印のようになります。
内野内に入り込むような走塁について、「まっすぐ走っていないからスリーフィートオーバーになるのでは?」という意見をX上で多数見かけました。
スリーフィートオーバー(アウトオブベースパス)で走者にアウトが宣告されるのは、次の規則が適用されたときです。
公認野球規則5.09(b)(1)
(次の場合、走者はアウトになる。) 走者が、野手の触球を避けて、走者のベースパス(走路)から3フィート以上離れて走った場合。
ただし、走者が打球を処理している野手を妨げないための行為であれば、この限りではない。
この場合の走者のベースパス(走路)とは、タッグプレイが生じたときの、走者と塁を結ぶ直線をいう。
このように「野手の触球を避けて」とあります。触球(タッグ)を避けるときに、その時走者がいた位置と進もうとする塁とを結んだ線分を基準に3フィート(91.44cm)以上離れると、触球されなくても走者はアウトになります。
しかし、触球(タッグ)を避けるときでなければ、走塁する場所について特に規則での制限はありません。
実際、長打になったとき、走者はトップスピードでベースを駆け抜けやすいように大きく膨らんで走ることがあります。また、塁間に打球が飛んでちょうど野手がそこで守備をしようとしたときは、守備が優先ですから走者は守備の妨げにならないように大きく野手を避けることがあります。しかし、いずれもアウトを宣告されることはありませんね。
守備妨害にはならないのか?
一塁ゴロから二塁に送球が来ることを分かっていてあれだけ内野内に入り込んで走塁したことに、「送球の妨げにあたり、守備妨害なのではないか」という意見もX上には多数投稿されていて、「マチャドの走塁」がトレンド入りするほどだったようです。
今回の事象で守備妨害を適用するならば、適用する規則は5.09(b)(3)が該当します。
公認野球規則5.09(b)(3)
(次の場合、走者はアウトになる。) 走者が、送球を故意に妨げた場合、または打球を処理しようとしている野手の妨げになった場合。
たしかにこれだけ内野内に入っているのですから、マチャドは確信をもって中に入ってきたと思われます。しかし、今回、審判員は走塁妨害と判断しませんでした。
送球を「故意に」妨げたかどうか?
送球を「故意に」妨げたと言うためには、
- 走者が送球を投げる野手を見て、送球を受ける先の野手との間に自分の身体を入れに行こうとした
- 飛んでくる送球に向かって手を出した
など、明らかに送球を止めに行こうとする行動が見て取れなければなりません。
マチャドは確かに塁線上から内野内に向かって入ってきていますが、このとき、一度も一塁手の方を振り返るようなことはしていません。そして、まだ一塁手が二塁に向かって送球する前から、すでにこれだけ中を走っているのです。
先ほども述べた通り、まっすぐ走っていなくても、触球(タッグ)を避けるときでなければ、走塁する場所について特に規則での制限はありません。
審判員は、マチャドが「送球コースに向かって走りこんだ」のではなく、あくまでも「走塁していたところに一塁手からの送球が飛んできて当たった」と判断したと考えられます。そのため、故意に送球を妨げたとは言えないので、守備妨害が宣告されませんでした。
送球が走者に当たった結果、守備妨害が宣告された事例
今回のマチャドの走塁と比較するために、「送球コースに向かって走りこんだ」と判断されて守備妨害が宣告された事例を見てみましょう。
三塁走者が飛び出しているのを見て刺そうとした捕手の送球が三塁走者に当たり、送球はファウルスタンド方向へ転がっていきました。三塁走者が本塁に向かおうとするところで、球審は守備妨害を宣告しました。
この事例では、走者は、捕手が送球を投げたあと、ボールを見ながら三塁に戻ろうとしているように見えます。送球が当たったときは確かに送球に対して背を向けていますが、ぎりぎりまでボールを見て、送球コースに自ら入っていったと審判員が判断したことから、守備妨害が宣告されました。
※なお、解説の方が説明されたような、「ラインの内側(フェアグラウンド内)で当たったから守備妨害」というルールは、存在しません。
マチャドの走塁はルール的にOKということか?
ここまで解説しておいてなんですが、そうとも限りません。
私が当該審判員の立場なら、マチャドの走塁は当該審判員と同様に「守備妨害ではない」すなわち「インプレイ」と判定しますが、このプレイをどう判定するかは審判員の判断によります。率直に言ってかなりギリギリのプレイであり、「守備妨害」と判定する審判員がいても不思議ではありません。
特に高校野球などの学生野球においては、日本学生野球憲章で示すように
学生野球は、教育の一環であり、平和で民主的な人類社会の形成者として必要な資質を備えた人間の育成を目的とする
という基本原理があります。
高校野球でマチャドのような走塁があったとき、走者が「わざと」送球コースに入ったことを取り上げ、公認野球規則に記載のない「教育的観点」という理由で、審判員が「守備妨害」と判定することも考えられます。
※なお、先ほど紹介した市立船橋の走塁は故意に送球コースに入ったように見えるので、「教育的観点」ではなく守備妨害だと考えます。
ちなみに、あるプレイを妨害とみなすかどうかは、当該審判員の判断(主観)によるものなので、基本的にリプレイ検証の対象になりません*1。
ロバーツ監督がチャレンジを要求しなかったのは、そもそも要求できる事象ではなかったからです。
今回のプレイを、「反則とならないルール上の盲点を突いたずる賢いプレイ」という見方をする方がいるのは理解できます。一方で、「勝利のためにルールのギリギリを攻めたメジャーリーガーらしいスーパープレイ」という見方もできるでしょう。
私の結論は、「インプレイで成り行き通り」です。