numの野球・サッカーのルール解説

野球やサッカーの観戦をしていて、ルールが分からず「今のはなんでこういう判定なの?」と疑問に思うようなプレーに、競技規則から判定の理由についてアプローチします。

まさかの奇襲!ホームスチールがあったときのルールを解説。

今回は、2025年6月28日、中日vs広島の9回裏に起こったホームスチールの場面を取り上げます。まさかの奇襲でしたが、広島バッテリーは見事に対処して三塁走者をアウトにして試合終了となりました。

実は、今回のようなホームスチールの場面に関して、野球のルールとして知っておいてほしいことがいくつかあります。今回はこれを解説していこうと思います。

投手が「ホームに投げたボール」は、投球か?送球か?

この状況で三塁走者をアウトにするためには、とにかく投手は本塁に向かってボールを投げるしかないのですが、その時に投げたボールは「投球」なのか、「送球」なのか。

ルール上、「投球」か「送球」かは大違いです。

その違いについて確認していきましょう。

ホームに投げたのが「投球」だったら?

投手がホームに投げたのが「投球」ならば、打者には打つ権利があります。そのため、捕手は本塁より前に出て捕球することができません。仮に、捕手が本塁より前に出てきたときに打者がバットを振って捕手にバットが当たったとしても、悪いのは捕手です。

捕手が投球を捕ろうとして本塁よりも前に出てきた場合、「ボーク+打撃妨害」のペナルティが課され、打者が打とうとしたかどうかに関係なく、全ての走者はボークによって1つ進塁し、打者は打撃妨害によって一塁に進塁します。

公認野球規則 6.01(g) スクイズプレイまたは本塁の妨害

 3塁走者が、スクイズプレイまたは盗塁によって得点しようと試みた場合、捕手またはその他の野手がボールを持たないで、本塁の上またはその前方に出るか、あるいは打者または打者のバットに触れたときには、投手にボークを課して、打者はインターフェアによって一塁が与えられる。この際はボールデッドとなる。
【注1】 捕手がボールを持たないで本塁の上またはその前方に出るか、あるいは打者または打者のバットに触れた場合は、すべて捕手のインターフェアとなる。
 特に、捕手がボールを持たないで本塁の上またはその前方に出た場合には、打者がバッタースボックス内にいたかどうか、あるいは打とうとしたかどうかには関係なく、捕手のインターフェアとなる。また、その他の野手の妨害というのは、たとえば、一塁手などが著しく前進して、投手の投球を本塁通過前にカットしてスクイズプレイを妨げる行為などを指す。
【注2】 すべての走者は、盗塁行為の有無に関係なく、ボークによって1個の塁が与えられる。
【注3】 本項は、投手の投球が正規、不正規にかかわらず適用される。
【注4】 投手が投手板を正規に外して走者を刺そうと送球したときには、捕手が本塁上またはその前方に出ることは、正規なプレイであって、打者がこの送球を打てば、かえって打者は守備妨害として処置される。

ここで「本塁よりも前に出て」とは、キャッチャーミットだけが出た場合でも該当しますが、本塁よりも前に出ていたかどうかは、審判員の判断によります。

ホームに投げたのが「送球」だったら?

一方、投手がホームに投げたのが「送球」ならば、打者は打つことはできません。先ほどの【注4】にも記載のとおり、捕手が本塁より前に出てきたとしても正規の守備行為です。捕手が本塁より前に出てきたときに打者がバットを振って、送球を打ったり、捕手にバットが当たったりすれば、守備妨害が宣告されます。

投球と送球の区別はどこでつく?

投球か送球かの違いは、投手が投げるときに投手板(プレート)から投げたかどうかで決まります。

  • 軸足がプレートに付いている状態でホームに投げようとしたら、「投球」として扱われます。
  • 軸足をプレートから外した場合は、投手は「野手」の資格になり、ホームに投げるのは「送球」です。

また、軸足がプレートに付いている状態の場合、一塁走者や三塁走者が走り出すことによって投手が慌てると、ボークが宣告される場合もあります。

  • 投球動作を途中で止めてしまう
  • プレートに付いたまま一塁に踏み出したところで三塁走者の飛び出しに気づいて、送球する方向を一塁から変えてしまう
  • 焦って、不自然な動きをしてしまう

などの理由でボークが宣告されることが考えられます。あるいは、今回のホームスチールは、そのようなボークを狙っていた一か八かの作戦だったのかもしれません。

しかし、ハーン投手は慌てることなく、プレートの後方に軸足を外してから速やかに本塁に「送球」しました。

そう。このような状況での一番の対処方法は、投手が落ち着いて軸足をプレートから外すことです。

捕手がボールを持たずに本塁上に出てくるのはコリジョン

結論として、今回はコリジョンルールの適用にはなりません。

公認野球規則6.01(i)  本塁での衝突プレイ

(2)  捕手がボールを持たずに得点しようとしている走者の走路をブロックすることはできない。もし捕手がボールを持たずに走者の走路をブロックしたと審判員が判断した場合、審判員はその走者にセーフを宣告する。前記にかかわらず、捕手が送球を実際に守備しようとして走者の走路をふさぐ結果になった場合(たとえば、送球の方向、軌道、バウンドに反応して動いたような場合)には、本項に違反したとはみなされない。また、走者がスライディングすることで捕手との接触を避けられたならば、ボールを持たない捕手が本項に違反したとはみなされない。
  本塁でのフォースプレイには、本項を適用しない。

【原注】 捕手が、ボールを持たずに本塁をブロックするか(または実際に送球を守備しようとしていないとき)、および得点しようとしている走者の走塁を邪魔するか、阻害した場合を除いて、捕手は本項に違反したとはみなされない。審判員が、捕手が本塁をブロックしたかどうかに関係なく、走者はアウトを宣告されていただろうと判断すれば、捕手が走者の走塁を邪魔または阻害したとはみなされない。また、捕手は、滑り込んでくる走者に触球するときには不必要かつ激しい接触を避けるために最大限の努力をしなければならない。滑り込んでくる走者と日常的に不必要なかつ激しい接触(たとえば膝、レガース、肘または前腕を使って接触をもくろむ)をする捕手はリーグ会長の制裁の対象となる。

どうしてもルールブックの記載は表現が難解になりがちなので、ルールのポイントを私なりに整理すると、次の4点にまとめられます。

  1. ボールを持たずに走者の走路をブロックすることはできない。
  2. 捕手が送球の方向、軌道、バウンドに反応して、送球を実際に守備しようとして走者の走路をふさぐ結果になった場合には、本項に違反したとはみなされない。
  3. 走者がスライディングすれば捕手との接触を避けられた、または捕手のブロックがあったかどうかに関係なくタイミング的に走者はアウトだ(明らかに遅かった)と判断できる場合は、捕手が走者の走塁を妨害したとはみなされない。
  4. 本塁でのフォースプレイには、本項を適用しない。(初めから本塁を踏んで送球を待つのは当然だから)

3.の「明らかに遅い」とは、走者が滑り込む前にもう捕手にボールが渡っている、クロスプレイを考えるまでもなく、もう結果が見えている状況と考えてください。

 

では、これを踏まえて実際に送球を受けるときの石原捕手の立ち位置を確認してみましょう。

コリジョンルールを適用するかどうかのポイントは、捕球する瞬間の動きではなく、ボールを持たないうちから捕手が走路に立って走路をふさいでいたかどうかです。石原捕手は、このように本塁よりも前に出て、送球を受ける瞬間まで走路をふさがないように立っています。

ちなみに、これはハーン投手が慌てることなく、プレートの後方に軸足を外してから速やかに本塁に「送球」したからできること。
ハーン投手が軸足をプレートに付けたまま本塁に投げたらそれは「投球」なので、石原捕手が本塁よりも前に出て送球を受けることはできなくなってしまいます。

 

なお、送球を受けた後なら野手が走者をアウトにするために走路に入るのは正規の守備行為なので、触球するときに石原捕手がこの位置にいるのは問題ありません。

まとめ

ルール上、「投球」か「送球」かは大違いです。それは、投手が軸足をプレートに付けたまま投げたか、軸足をプレートの後方に外してから投げたかで区別されます。

  • 捕手が「投球」を捕ろうとして本塁よりも前に出てくることはできない。
    本塁よりも前に出てきた場合は、打者が打とうとしたかどうかに関係なく、「ボーク+打撃妨害」のペナルティが課される。
  • 軸足をプレートから外した場合は、本塁への「送球」なので、捕手が本塁よりも前に出て捕球することができる。打者が打とうとすればむしろ守備妨害。
  • コリジョンルール適用にならないようにするためには、捕手は走者の走路を空けて、送球を受ける瞬間まで走路をふさがないように立つことが大切。

まさに、バッテリーが冷静に対処したからできたナイスプレーと言えると思います。