
2026年5月10日、ソフトバンク対ロッテの試合3回裏、周東佑京選手が鮮やかなホームスチールを決めて球場を沸かせました。しかしSNSでは「これは打撃妨害ではないのか」という声も多く上がっています。
今回は、ホームスチールの場面で打撃妨害とボークが同時に成立する条件を、公認野球規則6.01(g)をもとに解説します。
※ 2026年5月12日、本事象の考察について大幅に追記しました。
※ ホームスチールの場面で投手が正しく投手板を外してから本塁に送球し、捕手が前に出て対処した「合法パターン」については、以下の記事で解説しています。本記事はその「逆パターン」にあたります。
投手がホームに投げたボールは「投球」か「送球」か
ホームスチールの場面で投手が本塁方向へボールを投じるとき、それが「投球」なのか「送球」なのかで、ルール上の扱いはまったく変わります。
区別の基準はシンプルです。
- 投手板に触れたまま投じた場合は「投球」
- 投手板を正しく外してから投じた場合は「送球」(この場合、投手はルール上「野手」として扱われます)
なお、今回の試合では公式記録員が「投手板を外していたので送球扱い」と説明し、周東選手のプレイはホームスチール成功として処理されました。この点については後の節で詳しく整理します。
「投球」だった場合
投手板に触れたまま投じたボールは「投球」です。
投球である以上、打者にはそのボールを打つ権利があります。そのため、ボールを持たずに捕手が先に本塁上またはその前方へ出てしまうと、打者の打つ権利を妨げたことになってしまいます。
スクイズや本塁への盗塁(ホームスチール)によって三塁走者が得点を試みている場面で、捕手がボールを持たずに本塁上またはその前方に出た場合、打者が打とうとしたかどうかに関係なく、公認野球規則6.01(g)の適用となり、守備側に「ボーク+打撃妨害」のペナルティが課せられます。詳しくは、この後説明します。
「送球」だった場合
投手板を正しく外してから投じた場合は「送球」です。
投手板を外した瞬間、投手はルール上「野手」として扱われます。そのため、捕手が本塁より前に出てきたとしても正規の守備行為です。投手板を正しく外した場合の送球に対して、打者はプレイを妨げることができません。
今回のプレイを検証する
YouTubeに公開されている、パーソル パ・リーグTV公式の動画で確認してみましょう。
今回は三塁走者が盗塁(ホームスチール)によって得点を試みています。また、映像を見る限り、投手が投手板に触れたまま本塁方向へ投じています。つまり、このボールは「投球」扱いです。

そして映像からは、捕手がボールを持たずに本塁より前に出て三塁走者に対する守備をしようとしていることが確認できます。

以上の状況から、今回のプレーは規則6.01(g)が適用される可能性が非常に高い場面であるといえます。
6.01(g)が適用されると何が起きるか
では、ここで公認野球規則6.01(g)の内容を確認していきましょう。
公認野球規則 6.01(g) スクイズプレイまたは本塁の妨害
3塁走者が、スクイズプレイまたは盗塁によって得点しようと試みた場合、捕手またはその他の野手がボールを持たないで、本塁の上またはその前方に出るか、あるいは打者または打者のバットに触れたときには、投手にボークを課して、打者はインターフェアによって一塁が与えられる。この際はボールデッドとなる。
【注1】捕手がボールを持たないで本塁の上またはその前方に出るか、あるいは打者または打者のバットに触れた場合は、すべて捕手のインターフェアとなる。特に、捕手がボールを持たないで本塁の上またはその前方に出た場合には、打者がバッタースボックス内にいたかどうか、あるいは打とうとしたかどうかには関係なく、捕手のインターフェアとなる。
【注2】すべての走者は、盗塁行為の有無に関係なく、ボークによって1個の塁が与えられる。
ここで重要なのは【注1】です。捕手が本塁より前に出たかどうかは、打者が打とうとしたかどうかとは無関係に判断されます。捕手の身体だけでなく、ミットを含む体の一部が本塁上またはその前方に出た場合も該当します。
なお、【注1】に抵触したかどうかは球審の判断によります。

6.01(g)が適用された場合の処置は次のとおりです。
- 三塁走者:ボークにより1つ進塁が与えられるため、本塁へ進み得点となります
- その他の走者:ボークにより、それぞれ1つ進塁します
- 打者:打撃妨害により一塁へ進みます
今回のプレイで6.01(g)が適用されていた場合、周東選手はホームスチールとしてではなくボークによる進塁で本塁へ、さらに打撃妨害によって打者が一塁へという処置になります。
なぜ宣告されなかったのか
今回のプレイでは、6.01(g)が適用される可能性が非常に高い場面でしたが、宣告はされませんでした。
元審判員でスポーツキャスターの小石澤健さんは、今回のプレイを受けてXにこう投稿しています。
珍しい!
— 小石澤 健 (@MCKenKoishizawa) 2026年5月10日
審判学校ではこれでもかというくらい、処理の練習をします。実戦で適用するとなると、かなり勇気のいるルールですね🫢
ボークと打撃妨害の両方が適用されます。
投球に対して捕手出てはいけない範囲は、添付画像を参考にしてください✍️ pic.twitter.com/e8E6k7xcHy pic.twitter.com/fh1Jy5VrC5
「審判学校ではこれでもかというくらい、処理の練習をする」ほど重要なルールでありながら、「実戦で適用するとなると、かなり勇気のいるルール」とのことです。
球審が一瞬の間に確認しなければならない事項は複数あります。
- 投手が投手板を外したかどうか
- 捕手が本塁より前に出たかどうか
- それが捕球の前だったかどうか(捕球後に前に出るのは問題になりません)
映像で何度も見返せる立場とは、見える景色がまったく違います。
現場で何が起きていたのか
試合後、Number Webの取材によって現場の混乱ぶりが明らかになりました。
小久保裕紀監督は試合後の囲み取材でこう述べています。
「プレートは外してないでしょ。(ホームスチールに)なったのならいいけど、ボークをとってないのは問題じゃないですか」
打席にいた柳田悠岐選手も困惑を隠せない様子でした。
「あれはなんでボールが消えたんスか? いやいや、投球したでしょ。あれ?ボールが消えてるやんってなりましたもん」
柳田選手が言う「ボールが消えた」とは何を指すのでしょうか。プレイ直後、スコアボードにはボールカウントが1つ灯されていました。投球であればボールカウントが増えますが、送球扱いであればカウントは増えません。程なくして、そのカウントが取り消されたのです。
公式記録員は一部の報道陣に対し、「毛利投手は投手板を外していたので送球であり、投球ではない」と説明しました。送球であればボールカウントは増えませんから、カウントが取り消されたのはその処理によるものです。
しかし、柳田選手の「投球したでしょ」という感覚は、小久保監督の認識とも、映像から確認できる事実とも一致しています。Number Webの記者も映像を確認した結果、「左足をプレートから外す動作ははっきりとは見受けられなかった」と記述しています。
公式記録員の「送球」説明をどう理解するか
ここで整理しておきたいのは、公式記録員の役割についてです。公式記録員は「記録処理」を担当する立場であり、「規則適用の正誤」を判断する権限はありません。
球審がタイムをかけて打撃妨害・ボークを宣告しないままタッグプレイの判定を行った以上、公式記録員としてはその判定と矛盾しない形で記録を整理する必要があります。もし「投球」として処理すればボールまたはストライクのカウントが発生するはずですが、球審はそのような処理をしていません。公式記録員による「送球」という説明は、その現場処理を前提とした整理であったと考えられます。
本記事では、投手が投手板を外さずに投じたこと(投球扱い)が適切に認識されず、タイムをかけて打撃妨害・ボークを宣告しないままタッグプレイの判定を行ったことが誤審であると評価する立場をとります。
もし柳田選手が打っていたら
「もし柳田選手がバットを振っていたらどうなっていたか」という疑問を持った方も多いと思います。
捕手はすでに本塁前に出ています。この場面では、まず6.01(g)の適用が問題となります。打者が通常の打撃行為を行った結果として捕手と接触した場合、守備妨害よりも捕手側の打撃妨害が優先的に検討される場面であったと考えられます。
実際には、捕手と打者が接触する危険な状況となり、場内は騒然となったでしょう。しかし混乱が収まったところで審判団が協議し、6.01(g)適用の可能性は元のプレイよりも高くなったと考えられます。
なお、Number Webの取材に応じたソフトバンクの球団関係者は「柳田がバットを出していれば、審判団が集まって協議してボールデッドで2アウト三塁からやり直しになったのではないか」と私見を述べています。つまり、"このプレイの出発点からのやり直し"という意味でしょう。
しかし、私はここまで述べたように、本事象では6.01(g)が適用される場面であり、「2アウト三塁からやり直し」ではなく、三塁走者には本塁(得点)、打者には一塁が与えられるという処置になると考えています。
リクエストはできるのか
もし、本塁でのタッグプレイが成立し、周東選手が本塁でアウトを宣告された場合。
ソフトバンク側からクロスプレイについてリクエストが行われる可能性も考えられますが、そうではなく、投手が投手板を外していなかったことを指摘し、規則6.01(g)適用を主張するリクエストを行うことはできるでしょうか。
NPBのリクエスト制度において、今回問題となっている6.01(g)のような打撃妨害・ボークの適用有無は、リクエストの対象外です。しかし、投手板を外していたかどうかは、球審以外の他の審判員も見ています。よって、リプレイ映像の確認ではなく、4人の審判員の協議が行われる可能性は考えられます。また、そうなった場合、「ボーク+打撃妨害」に処置が修正される可能性が十分考えられます。
リクエスト制度の詳細については、以下の記事をご覧ください。
まとめ
- ホームスチールの場面で投手が投手板に触れたまま本塁方向へ投じた場合、そのボールは「投球」扱いになる。
- 三塁走者が本塁への盗塁を試みている場面で、「投球」に対して捕手がボールを持たずに本塁上またはその前方に出た場合、打者が打とうとしたかどうかに関係なく、公認野球規則6.01(g)により「ボーク+打撃妨害」が適用される。
- 6.01(g)適用の場合の正しい処置は「三塁走者にボークで本塁(得点)、打者に打撃妨害で一塁」。
- しかし、今回審判団は「送球」とみなしたため、6.01(g)適用とならなかった(私はこのことが誤審であると捉えています)。ただし、現場で瞬時に判断することは非常に難しいプレイである。
※投手が正しく投手板を外してから本塁に送球し、捕手が前に出て対処した「合法パターン」については、以下の記事で解説しています。