
いくらなんでも時間かけすぎ。…というのが率直な私の感想です。
ただし、この長すぎるVARチェックは、確かにビデオオペレーションルームの段取りにも反省点はあるでしょうが、VAR制度的に考えて致し方なかったという側面もあったように感じます。
2026年2月14日、J1百年構想リーグ第2節、清水vs京都では10分越え。FC東京vs浦和でも8分間にわたるVARによるオフサイドかどうかのチェックが行われ、判定はどちらもオフサイドでノーゴールとなりました。
SNSでは「10分は異常」「VARのせいで試合が壊れる」といった声に加え、「DAZNの3Dライン表示が分かりにくい」という指摘も多く見られました。
今回はこの2試合に関して、
- なぜこんなにVARチェックに時間を要したのか?
- 主審が決めるという判断はないのか?
といった疑問について解説していきます。
なぜここまでVARチェックが長引いたのか?
結論から言うと、今回の2試合は「誰かの判断が遅れた」のではなく、検証すべき項目が多層構造になっていたからではないかと推測します。
ケース①:清水vs京都 オフサイドライン特定が「技術的に難しい」プレーだった
清水vs京都では、最終ディフェンスラインを正しく引くまでに時間を要したのではないかと推測します。
DAZNの中継で解説者が、
「こういう時間が嫌なんですよね。いいじゃないですか得点でと思うんですけどね。副審が(旗を)揚げてなかったらゴールで」
という趣旨の発言をしていますが、この瞬間、攻撃側も守備側も選手が集まっていて、オフサイドラインを正確に見極めるのは容易ではありません。グラウンドレベルで副審からこの瞬間のオフサイドの見極めは困難だったのではないかと思います。
一方、リプレイ映像を使って判定するVARは3Dラインテクノロジーを使ってオフサイドラインを引いていきます。
詳しいことは▼こちらの記事を参照いただくとして、
2Dラインから3Dラインへ JリーグのVARはどう進化する? - numの野球・サッカーのルール解説
3Dラインで判定する場合、2つのラインを確定させるためには次の手順で進めていきます。

最終的な判定が行われた後にDAZNの中継映像に流れた3Dオフサイドラインを拡大して確認してみると…
青の点線が、手前にいる京都(白)の須貝選手の指先付近にのびているように見えます。これだと、VARは最終的に須貝選手の指先の位置でオフサイドラインを引いたように見えてしまいます。仮にそうだとすると、それは正しいラインの引き方ではありません。
サッカー競技規則 第11条 オフサイド
競技者は、次の場合、オフサイドポジションにいることになる。
- 頭、胴体もしくは足の一部でも、相手競技者のハーフ内にある(ハーフウェーラインを除く)。そして、
- 競技者の頭、胴体もしくは足の一部でも、ボールおよび後方から2人目の相手競技者より相手競技者のゴールラインに近い位置にある。
ゴールキーパーを含むすべての競技者の手や腕は、含まれない。オフサイドの反則を判定するにあたり、腕の上限は、脇の下の最も奥の位置までのところとする。
この規則のとおり、本来、オフサイドを判定するときにすべての競技者の手や腕は対象としません。VARがオフサイド判定を行うにあたって腕を考慮していたとしたら、明確に誤審です。
しかしながら、オフサイドラインは私の眼には須貝選手の右足のように見え、映像でも青のオフサイドラインは右足のところで引いているように見えます。よって、本件の結論自体はこの映像のとおりで、オフサイドでノーゴールは正しい判定だと考えます。
ここからは完全に想像ですが、ビデオ・オペレーション・ルーム(VOR)では、当初は画面奥側にいるジョアン・ペドロ選手をオフサイドラインとして検証していたのではないでしょうか。
そして、検証を進めていく中で須貝選手のほうがより後方にいるのではないかという疑義が出てきて、青のラインを須貝選手のつま先の位置まで動かし、それでもなおオフサイドが成立していることは間違いないと分かって、判定を確定させたのでは…?
青い点線は、ペドロ選手で検証していた時に頭の位置で引いて、須貝選手に対象を変えたとき、リプレイオペレーター(RO)が何かの勘違いで指先の位置に動かしてしまったのでは…?
などと考えました。
ケース②:FC東京vs浦和 1つのゴールに“2つの論点”が重なった複雑なVARチェックだった
このプレーは「関根が触ったのか」「柴戸が前にいたのか」という2段階のチェックが必要だったため、視聴者が状況を把握しづらい構造になっていました。
結論はフリーキックの瞬間に浦和の柴戸選手がオフサイドラインより前に出ていたということでしたが、
中継映像でも流れていたように、まずフリーキック時点で関根選手がオフサイドポジションだったかどうか。次にその関根選手がボールに触っていたかどうかに注目が行き、あらゆるカメラの角度からリプレイ映像を検証していた可能性が考えられます。
もし、関根選手がここで触っていれば、その後のプレーは明らかにオフサイドです。
そして、関根選手がボールに触れていなかったことが確認できたところで、次に柴戸選手がオフサイドだったかどうかをチェックしていったのではないかと想像します。
確認すべき事象が1つのプレーにあまりにもたくさんありすぎて、時間がかかってしまったのだと思います。
なぜ主審がオンフィールドレビューしないのか
オフサイドは主審の“裁量”で決める類の事象ではなく、VARプロトコル上「VARのみで事実認定する案件」に分類されているためです。
オフサイドの反則が成立しているかどうかは、今回の場合、攻撃側の選手がオフサイドポジションにいたかどうかが焦点になります。
いたかどうかは主審の主観で決めるものではなく、画面を見て判定できる「事実」に基づくものです。このような場合は、VARオンリーレビューを行うことになっています。主審が映像を確認して判断する性質のものではありません。
時間かけすぎなので主審が映像を見て決めてしまえば…?という意見も見かけましたが、競技規則(VARプロトコル)ではそのような運用が定められていません。審判団が進んでルールにない方法をとることはできません。
また、仮にVARプロトコルを無視して主審が映像を見たとしても、結局はVARと同じ映像を、同じ手順で確認することになります。さらにVORとの無線でのやり取りが必要になるため、むしろ時間は延びる可能性すらあります。
結論:判定は妥当、だが確認時間は長すぎる
今回の2試合におけるVARの結論は、競技規則・VARプロトコルの観点から見て、いずれも妥当なものでした。
しかし一方で、8分や10分といった審判団の確認を理由とした中断時間は、スポーツとしてのテンポや観戦体験の観点から見て、さすがに長すぎると言わざるを得ません。
VARは誤審を減らすための仕組みであり、その目的自体は間違っていません。しかし、精度を追求しすぎた結果、試合の流れやゴールの高揚感といった本来スポーツ観戦で味わうべきものが犠牲になっているように感じます。
VAR制度が導入された当初は、「最小限の干渉で最大の利益を得る」という哲学に基づき、何度映像を見返しても判らない場合は現場の判定を尊重するという運用がなされていたように記憶しています。
今回のような事例を受けて、報道や現場の議論では、VAR運用の改善策として次のような方向性も挙げられています。
- 半自動オフサイドテクノロジー(SAOT)の導入・高度化
- VARオペレーションの標準化(確認手順・役割分担の明確化)
- 3DオフサイドラインのUI改善(対象部位の可視化・誤認防止)
いずれも、「正確性を維持したまま、確認時間をいかに短縮するか」という観点からは、現実的な改善案だと言えるでしょう。
問われているのは、どのようにVARの運用を洗練させ、観戦体験と両立させていくかです。
今回の2試合は、その課題がいよいよ無視できないレベルに達していることを示す、象徴的なケースだったのではないでしょうか。