
ハイブリッドポジション解説の第1弾では、その導入に至る背景を整理し、第2弾ではワインドアップ/セットポジションとの関係から定義を確認してきました。
シリーズ第3弾となる今回は、「実際の試合ではどう扱われるのか」という運用面に踏み込みます。
結論から言えば、ハイブリッドポジションで問題になるのは足の置き方だけではなく、 投手がどのポジションで投げると通告したか、 そしてその後の投球動作が一貫しているかです。
以下、MLBの実例を参照しつつ、ハイブリッドポジションが試合でどのように判断され、どのような手順で扱われるかを整理します。
※公認野球規則2026年改正の全体像については、別記事で整理しています。
→ 公認野球規則2026改正まとめ
ハイブリッドポジションのルール上の扱い
ハイブリッドポジションとは、(前回の記事でも整理したとおり)塁に走者がいるときに、「投手が投手板に軸足を並行に触れ、なおかつ自由な足を投手板の前方に置いた場合」の投球姿勢を指します。
この姿勢をとった場合、審判員は原則としてセットポジションで投球するものとみなします。見た目がワインドアップに近く見えても、まずはセットとして扱うのが基本です。
ただし、次のいずれかのタイミングで、投手が球審に「ワインドアップポジションで投球する」と通告した場合には、ワインドアップとして扱われます。
- 打者が打席に入る前
- 攻撃側チームにプレーヤーの交代があったとき
- 走者の位置が変わったとき
この通告があることで、投手はワインドアップポジションとして投球することができます。
投手が通告をするとどうなるの?
MLBのアンパイアマニュアルには、次のように記されています。
Once the pitcher notifies the home plate umpire of his intention to pitch from the Windup, the umpire should call “Time”; the ball is dead; and the umpire should indicate to the other members of the crew and each Club that the pitcher has elected to pitch from the Windup.
(拙訳)投手が球審にワインドアップから投球することを通告した場合、審判員はタイムを宣告してボールデッドにする。球審は、他の審判員や両チームに、投手がワインドアップから投球することを示さなければならない。
つまり、手順は次のとおりです。
- 投手がワインドアップで投げる旨を通告する
- 球審がタイムを宣告してボールデッドにする
- 審判団と両チームに投手がワインドアップで投げることを示す
この共有が重要なのは、セットとワインドアップでボークの判定基準が異なるためです。
投手が通告を忘れてワインドアップで投球したら……
ボークです。
ハイブリッドポジションの姿勢をとった場合、審判員は原則としてセットポジションで投球するものとみなします。
したがって、投手がワインドアップとして投球する意思を事前に通告しないまま、自由な足を後方に引くなどワインドアップの動作に入った場合、セットポジションから投球動作を変更したと判断され、ボークが宣告されます。
ここまで見てきたとおり、ハイブリッドポジションで問題となるのは「足の置き方」だけではなく、事前の通告があったかどうかも関係してきます。
実例 2017年5月9日 ロイヤルズ vs レイズ
▼2017年5月9日のロイヤルズ vs レイズ戦では、実際にこのタイプのボークが宣告されました。
2017年5月9日のロイヤルズ対レイズ戦では、3回表にレイズのアンドリーセ投手がボークと判定され、三塁走者が生還しました。
映像で確認すると、アンドリーセ投手の軸足は投手板に並行に触れ、自由な足は投手板の前方に置かれていました。これはハイブリッドポジションの典型的な姿勢です。

この姿勢から自由な足を後方に一歩引いて振りかぶる動作に入りました。
これを見て審判員はボークを宣告しました。判定の理由は、投手が球審にワインドアップで投球する旨を通告していなかったためです。
注意したい「もう一つのケース」
見た目が似ていても、最初からワインドアップの足の置き方をしている場合は、通告は不要です。
▼この動画投稿ではボークではないかと指摘されていますが……
自由な足が投手板より前にあり、ハイブリッドポジションであるかのように見えますが、軸足の向きが投手板に並行ではなくつま先が打者方向を向いているため、ワインドアップとして解釈されます。
よって、そもそもワインドアップで投げるという通告が不要です。このルール導入で逆の混乱が生じる可能性もあるため、軸足の向きや姿勢全体を正確に見ることが重要です。
投手がワインドアップで投球すると通告したら……
ハイブリッドポジションをとった上でワインドアップで投げると通告した場合、投手はワインドアップの動作を一貫して行う必要があります。
2025年4月6日のパドレス対カブス戦では、投手がワインドアップで投げると通告したにもかかわらず、動作途中でセットのように静止してしまい、審判団が確認したうえでボークと判定しました。
ギラスビー投手は、2アウト満塁の場面で登板し、ワインドアップポジションで投げると通告しました。これを受けて審判団が「タイム」をかけ、周囲(ランナーや相手ベンチ)に周知しています。
▼その上でギラスビー投手は投球を始めたのですが……
通告をした場合は、ワインドアップに関連する動作を起こしたら中断や変更をせず、その投球を完了しなければなりません。通告がある以上、見た目がセットに近くてもワインドアップのルールに従う必要があり、途中で動作を止めたり変更したりすればボークになります。
※ちなみに、5球目にこの打席2度目のボークが起こりますが、これはリリース時にボールが手から抜けて地面にたたきつけてしまったのが理由です。
まとめ
ハイブリッドポジションは、足の置き方だけを見るとワインドアップともセットとも解釈できる姿勢です。したがって、実際の試合では投手がどちらの投球動作として投球するかを明確にすることがポイントになります。
- 通告がない場合:審判員は原則セットとして扱い、そこからワインドアップの動作に入ればボーク。
- 通告がある場合:ワインドアップのルールに従った連続した投球動作が求められ、途中で中断・変更すればボーク。
重要なのは「足を置く位置」だけではなく、「投球前の通告」と「その後の投球動作の一貫性」です。これは投手だけでなく捕手や野手、審判員にとっても共通の判断基準となります。
通告が球審から審判団、さらに両チームへ共有されて初めて、同じルール解釈のもとでプレーが成立します。共有がなければ、投手本人の意図とは無関係にルール上ボークを宣告せざるを得ません。
▼ 関連記事(ハイブリッドポジション解説シリーズ)
- ①【野球規則2026改正】ハイブリッドポジション導入の背景とバウアー事件
- ②【野球規則2026改正】ハイブリッドポジションとは何か ― ワインドアップ/セットポジションの定義から整理する
- ③【野球規則2026改正】ハイブリッドポジションの「運用」 ― 実際の試合ではどう扱われるのか
- ④【野球規則2026改正】ハイブリッドポジションはこう扱う ― 高野連通知が示した「運用の明文化」
※ハイブリッドポジションは、公認野球規則2026年改正の一項目です。
改正全体については、以下の記事で整理しています。
→ 公認野球規則2026改正まとめ