
今回は、2025年9月13日、明治安田J1リーグ第29節 岡山vs名古屋戦の90+4分57秒のシーンを取り上げます。
すでにいろいろな方が解説をされていますが、私は中継映像を見ていて「VAR制度について改めておさらいするのによいシーン」だと感じたので、ピックアップして解説していきます。
まずはリプレイを見てみましょう
明治安田J1リーグ第29節 岡山vs名古屋 90+5分のシーンです。(ハイライトでは1分28秒から)
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名古屋ゴール前に上がったボールに、名古屋の藤井選手がヘディングしようと跳ぶましたがうまくいかず、その後ろにいた岡山の田上選手が名古屋ゴールにシュート。同点ゴールと思われた直後にVARが介入し、主審はOFRの結果、ファウルがあったとして得点を認めませんでした。
柳選手のファウルはあったのか?
リプレイ映像を確認すると、藤井選手がヘディングしようと跳ぶ瞬間に、後ろにいた岡山の柳選手が背中を押していたように見えます。


主審はOFRを行って、プッシングがあったと判断し、攻撃側のファウルでノーゴールとする判定をしました。
VARの介入基準
私は、VARが介入した事象があるたびに確認しているのですが、VARはピッチ上の審判員をサポートする立場であり、主審の判定に「はっきりとした明白な間違い」もしくは「見逃された重大な事象」があったときに介入することとなっています。

今回の事象の場合、主審の角度からでは柳選手が藤井選手の背中を押したのが見えていなかっただろうと想像します。しかし、副審2からは見えていたはずです。その上で副審2はノーファウルと判断したから、主審だけでなく副審2もゴールと判定した(旗を上げずにハーフウェーラインに向かって走った)と私は理解しています。
この判断に、「はっきりとした明白な間違い」もしくは「見逃された重大な事象」があったと言えるでしょうか。より具体的に言うと、「柳選手が背中を押した」から「藤井選手はヘディングできなかった」のでしょうか。私はリプレイ映像から、背中を押すことは確かにあったにせよ、それほど強い力には見えず、恐らく背中を押されていなくても藤井選手はボールに届かなかったのではないかと考えます。
VARは、
- 藤井選手が柳選手に背中を押された
- 主審からはこれが見えていなかった
ことにフォーカスして介入(OFRを推奨)したのではないかと想像していますが、この場合の介入基準は、「ノーファウル」「ゴール」という判定に「はっきりとした明白な間違いがあるか」どうかです。
私は、確かに接触はあるが「明らかにファウル」とまではいえず、「VARが介入すべき事象ではなかった」と考えます。ただし、OFRの結果、主審が判定を「ファウルでノーゴール」と変更したことについては、主審の判断なので尊重します。
こういう事象があるからVAR制度に誤解が生じる!
これ以降は完全に私見です。
DAZNによる中継の中では、実況と解説者にVAR制度についての誤解があり、誤った表現や解説が行われました。
誤解1 VAR介入の意味の間違い
ゴールが決まったあとのリプレイが流れた後、
(実況)「今、VARが介入しています。」
(実況)「攻撃側によるファウルの可能性があったということでVARが介入しています。」
(実況)「田上大地がゴールネットを揺らしましたが、VARが介入!」
➡恐らくVerdictの表示が出たことを「VAR介入」と表現したのだと思います。
しかし、この時点では、ビデオオペレーションルーム(=VOR)で「攻撃側によるファウルの可能性」を確認している最中なので、VARが主審の判定に「介入」しているとは言いません。
誤解2 「VAR」という用語の誤用
(実況)「この判定によって、勝敗が大きく左右される、そんなVARとなっています。」
➡VAR=ビデオ・アシスタント・レフェリー(ビデオ審判員)なので、
「この判定によって、勝敗が大きく左右される、そんなビデオ審判員となっています。」という意味になります。
恐らく言いたいことは、「このリプレイ検証の結果によっては、勝敗が大きく左右される。そんな状況になっています。」でしょうか。VARという用語の使い方が誤りです。
ちなみに、(実況)「アディショナルタイムの中でのVARとなっています」も同様の間違いです。
誤解3 VAR介入条件の誤り
(実況)「得点、PK、退場、警告に関して、明らかな間違い、または見逃された事象に限り介入します。」
➡VAR介入の要件を短い時間で説明したかったのでしょうが、説明の内容は大間違いです。VARは警告に関しては介入しません。

(1) 得点かどうか
(2) PKかどうか
(3) 退場かどうか
(4) 警告・退場の人間違いがあったかどうか
について、「はっきりとした明白な間違い」もしくは「見逃された重大な事象」があったときにVARは介入します。VARチェックにはそこそこ時間がかかるので、むしろ実況さんは、こういう時こそ間を取って、VAR制度に関する資料を読みながら正確に説明したほうがよかったのではないかとさえ思います。
誤解4 VAR介入基準に関する無理解
(解説)「これ、けっこう時間がかかっていると思うので、すごく、本当に微妙なところだと思うんですよね。(中略)これ(柳選手の右手)を、跳べないぐらい押してるのか、っていう判断になるんですよね。……あー、やっぱみますね。これ。そうとう微妙なんだと思います」
➡解説者は、反則があったかどうかの判断が難しい(=微妙な)ときに、主審がリプレイ映像を見て最終判断を下すと思っている節があるようです。しかし、それは「はっきりとした明白な間違い」があったとはいえないので、むしろ微妙なときにOFRを勧めることはありません。
(解説)「完全にこう、ぐっと押してると、ファウルってとれると思うんですけど、触った感覚がどれぐらい相手に対して押してるのか、っていうところですよね。」
➡この解説はその通り。しかし、ぐっと押したのかどうかが「微妙」で、ファウルともファウルでないとも取れるようではVAR介入の基準を満たさない。
言い換えると、VAR実施手順では、VARは、「ノーファウル」と判断した主審の判定に「はっきりとした明白な間違い」があると思ったときに、OFRを勧めることになっています。そのため、私はこの事象でVARがOFRを勧めたことが疑問です。
(実況)「(主審がリプレイを見ている映像に対して)時間を取って確認を行います。」
➡この表現を、事実だけ切り取って聞く分には間違っていませんが、解説者の言う「微妙な事象」を「主審が時間を取ってリプレイで確認している」という意味で言っているのなら、VAR制度の理解が間違っているのではないかと感じます。OFRは、VARから「はっきりとした明確な間違い」があるのではないかという進言を受けて主審が映像を確認して最終判定をするものです。