
フライが上がったとき、走者は捕られるとリタッチの義務が生じるので容易に離塁することができません。一方、走者がフォースの状態にあるときは、フライが落球されると進塁義務が生じ、次の塁に向かって走らなければいけません。
この2つのルールを悪用して意図的にダブルプレイを狙うのはずるいとしてインフィールドフライや故意落球のルールがあるのですが……
今回は、ルールの盲点ではないかと言われる、外野手の故意落球について考えます。
外野手がわざとフライを落としたら
1アウト走者一・二塁の状況を考えます。
打球は浅いセンターフライです。センターが前進し、落下点に入ります。一塁走者と二塁走者はフライが捕られると思って帰塁しました。
すると、センターがグラブに打球を当てて落球、センターはそのまま打球を捕って二塁に送球、二塁手が二塁を踏み一塁走者をフォースアウト、さらに落球を見て走り出した二塁走者を二・三塁間の挟殺プレイでアウトにしました。
恐るべし、亜細亜
実はこのプレイ、2000年5月3日に亜細亜大vs中央大の試合で現実に起こったものです。
もし、これが内野フライならインフィールドフライまたは故意落球が宣告されるので、フライ一つでアウトを2つとるプレイはルール上締め出されます。
| インフィールドフライ | 0アウトか1アウト 走者一・二塁か満塁 内野フライ(ライナー、バント飛球を除く)が上がり、 内野手が普通の守備行為をすれば容易に捕球できると審判員が判断したとき。 |
| 故意落球 |
0アウトか1アウト 一塁に走者がいるとき |
しかし、このルールはいずれも内野フライに限られていて、外野フライには適用されないことになっています*1。
さて、どうやら亜細亜大はインフィールドフライと故意落球が内野フライでしか宣告されないことを熟知していて、浅い外野フライが上がったときのためにわざわざこのトリックプレイを練習していたようです。
認められず!亜細亜
しかし、2018年5月30日、亜細亜大は再び外野手が故意落球を行いますが、二塁塁審は故意落球と認めませんでした。
これは普段から練習してるプレーだね
— たすく (@S3_tasuku) 2018年6月1日
【東都】亜大・生田監督、猛抗議実らず惜敗「故意落球の練習を普段からやっている」 https://t.co/UJohuOjBEy pic.twitter.com/LgthfZdoUK
このプレイを、二塁塁審は「グラブにボールが入った後、意識的にボールを手放したので、完全捕球と認め、打者走者アウト。二塁はフォースプレイにならない」と判断しました。二塁塁審の判定に亜細亜大の生田監督は猛抗議しました。
「こっちはルールブックを勉強して、外野手には故意落球がないことを分かっている。その上で、故意落球しろ、という練習を普段からやっている。優勝がかかった試合で、あのジャッジは納得ができない」
おぉっと!ここで生田監督、「外野手の故意落球の練習を普段からやっている」と明言しました。ルールを熟知していることは大切なことだと思いますが、捕るべきフライをわざと落としてアウトを1つ余分に稼ぐというのは……
それが「ずるくて卑怯」だから、内野フライに対してインフィールドフライや故意落球のルールが定められているのだと思うのですが、外野フライでルールの適用逃れを狙うというのは、「ルールの中での知恵比べ」というにはずるいように感じてしまうのは私だけでしょうか。
ちなみにこういうプレイなら、全力疾走を怠った打者が悪いので、私はずるいとは思いません。
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ルールの運用変更?! 破れたり、亜細亜
そして2022年、外野手に対しても故意落球が適用されるようにルールの運用が変更されたというのです。
「野球審判員マニュアル第4版」に改定が加えられ、このケースについてのルールの運用についての変更が行われました。
野球審判員マニュアル第4版2020-2022修正一覧
68ページ 32.故意落球
外野手が、外野でダブルプレイを目的として故意に飛球やライナーを落とした場合、故意落球の規則が適用できるか? MLB UMPIRE MANUALには、「(故意落球の規則は) 外野手が内野近くまで来て、ダブルプレイを目的として故意に飛球やライナーを落とした場合にも適用される。」と書かれている。2021年7月に開催された日本野球協議会オペレーション委員会審判部会において、日本においてもこの考え方を採用することが確認された。(2022変更)
MLB UMPIRE MANUAL を調べてみると、2021年の改定によるものかどうかは確認できませんが、確かにそのような記述が確認出来ます。
INFIELDER INTENTIONALLY DROPS FLY BALL OR LINE DRIVE
Rule 5.09(a)(12):
Under Official Baseball Rule 5.09(a)(12), the batter is out, the ball is dead, and runner(s) return to their original base(s) when an infielder intentionally drops a fair fly ball or line drive with runners on first, first and second, first and third, or bases loaded (with less than two out).
Note that the batter is not declared out in this situation if the infielder permits the ball to drop untouched to the ground except when the Infield Fly rule applies.
When an infielder deliberately drops a fair ball or a line drive to set up a double play situation, runners may safely return to the bases they occupied at the time of the pitch. The same application shall be made if an outfielder has come so close to the infield to set up a double play situation if he intentionally drops the ball.
Runners cannot advance under this rule. Umpires shall immediately call “Time,” when, in their judgment, the ball is intentionally dropped.
なお、公認野球規則本文にはこの変更が反映されておらず、あくまでも審判員の運用によります。また、外野手が「内野近くまで来て」という表現が、どの程度内野近くまで来た場合なのかは明確ではなく、これまた審判員の判断によります。
とはいえ、このような記述が「審判員マニュアル」に記載されたことで、外野手が故意落球をすることはルール運用上できなくなりました。
でも、ワンバウンドさせてからの捕球なら……?
そう、故意落球のルールは、内野手(内野近くまで来た外野手も含む)がこの飛球に現実に触れて落とす行為があったときに適用する規則なので、打球に触れずに地面に落下させてから捕球した場合は適用されません。ワンバウンドさせてから捕球した場合は「故意落球」とは言わないのです。
例えば、浅めの外野フライをわざとショーバンで捕球すれば、走者を引っかけることができます。ねらってやろうとすると野手のプレイの難易度がかなり上がりますが……
*1:故意落球が現在の規則になったのは、アメリカでは1975年から、日本では1976年からです。それまでは故意落球の対象は「全ての野手」とされていて、外野フライも対象でした。また、発生した場合は「打者はその場で直ちにアウトになるが、走者はリタッチせずにアウトを覚悟で進塁してもよい」とされていて、ボールインプレイでした。
外野手がフライをわざと落とし俊足の一塁走者を封殺したら? | 野球コラム - 週刊ベースボールONLINE