
今回は、2025年5月23日、ドジャースvsメッツの4回に起こった走塁妨害の判定を取り上げます。
- 立っていただけで走塁妨害なのか?
- 三塁手の技術だと教わった!
といった旨の反応をX上で見かけましたが、三塁塁審の判定は走塁妨害となりました。
本件を取り上げたスポーツ新聞の記事をいくつか見ましたが、野球規則を正しく理解していない記事もあるようなので、適用規則とともに解説します。
まずはプレイを見てみましょう
4回裏のメッツの攻撃。一死三塁からアロンソがライトフライを放ちました。
Starling Marte and the Mets are awarded a run on obstruction by Max Muncy at third base
— SNY (@SNYtv) 2025年5月24日
(via @AppleTV) pic.twitter.com/Njni32IGZI
右翼手のヘルナンデスが本塁に好返球して三塁走者マルテをアウトにしますが、このとき三塁手マンシーが三塁走者の視界を遮ったとして三塁塁審が走塁妨害を宣告しており、マルテの生還が認められました。
視界を遮っても走塁妨害なの?
はい、走塁妨害になります!
まず、走塁妨害(Obstruction : オブストラクション)とは何かを定義で確認しましょう。
公認野球規則 定義51 OBSTRUCTION「オブストラクション」(走塁妨害)
──野手がボールを持たないときか、あるいは ボールを処理する行為をしていないときに、走者の走塁を妨げる行為である。(6.01h1・2)
このとおり、「走塁を妨げる行為」であれば該当し、接触したかどうかは関係ありません。
立っているだけで走路に入ったわけではないという主張をたくさん目にしましたが、タッグアップ(タッチアップ)のために野手が打球に触れる瞬間を確認する行為を妨げたと審判員が判断すれば、それは走塁妨害に該当します。適用するかどうかは「審判員の判断」のため、審判員からみて「野手が走者の離塁を妨害した」と見れば成立し、またリプレイ検証の対象とはなりません。
走塁妨害の適用規則は2種類ある!
走塁妨害の際に適用する規則は6.01(h)です。審判員は「オブストラクション」あるいは「走塁妨害」と宣告し、妨害をした野手を指差します。
公認野球規則6.01(h)オブストラクション
オブストラクションが生じたときには、審判員は〝オブストラクション〟を宣告するか、またはそのシグナルをしなければならない。
この規則6.01(h)には(1)項と(2)項*1があり、そのため「2種類ある」という言い方をします。
具体的には次のような違いがあります。
(1)項:走塁を妨げられた走者に対してプレイが行われていた場合
走塁を妨げられた走者に対しプレイが行われている場合、または打者走者が一塁に触れる前にその走塁を妨げられた場合には、ボールデッドとし、塁上の各走者はオブストラクションがなければ達しただろうと審判員が推定する塁まで、アウトのおそれなく進塁することが許される。
走塁を妨げられた走者は、オブストラクション発生当時すでに占有していた塁よりも少なくとも1個先の進塁が許される。(以下略)
(1)項は例えばランダウンプレイが起こっているときや、本塁クロスプレイでコリジョンルールが適用されるようなとき。
この場合は直ちにボールデッドになるので、審判員はオブストラクションの宣告とともに、両手を広げてタイムをかけます。また、走塁を妨げられた走者は少なくとも1つ先の塁に進むことが認められ、これによって押し出される走者も進塁します。
(2)項:走塁を妨げられた走者に対してプレイが行われていない場合
走塁を妨げられた走者に対してプレイが行なわれていなかった場合には、すべてのプレイが終了するまで試合は続けられる。審判員はプレイが終了したのを見届けた後に、初めて〝タイム〟を宣告し、必要とあれば、その判断で走塁妨害によってうけた走者の不利益を取り除くように適宜な処置をとる。(以下略)
今回の事例では、プレイが起こっているのは外野フライを捕球しようとしている外野手のところで、この瞬間に三塁走者に対して直接的にプレイが行われているわけではありません。そのため、適用するのは(2)項となり、審判員は走塁妨害をした三塁手を指差して走塁妨害を宣告しますが、プレイが一段落するまでタイムをかけず、成り行きを見守ります。

(2)項適用のキーワードは「走者の不利益を取り除く」
走塁妨害の(2)項を適用する場合、三塁手マンシーが三塁走者の視界を遮ったことで「タッグアップ(タッチアップ)のために野手が捕球する(打球に触れる)瞬間の確認」が遅れたことによる三塁走者の不利益を取り除くこととなります。
今回の事例では、ヘルナンデスから素晴らしいバックホーム送球が返ってきて、本塁上でのクロスプレイの判定はアウトでした。

このプレイについて「捕球の瞬間が確認できなかったこと」の不利益を取り除くとなると、本塁はクロスプレイにならなかった、あるいはクロスプレイの判定がセーフになる可能性が高かった、という判断になります。
よって、球審が一度宣告したアウトを取り消し、三塁走者マルテの生還を認める裁定となりました。ちなみに、もしも本塁のプレイが悠々アウトだった場合には、走塁妨害が宣告されていてもアウトの判定が変わらない可能性があります。この点が、オブストラクション(1)項を適用する場合と考え方が異なります。
*1:ベテランの方の中には、(a)項と(b)項という言い方をする方もいるかもしれませんが、現在の規則の(1)項がかつての(a)項、(2)項が(b)項のことになり、ルール自体はさほど変わっていません。