
今回は、2025年5月17日、ソフトバンクvs楽天の5回裏で起こった事例を取り上げます。
打者走者の栗原選手はなぜアウトになったのかが中継映像で分からず、実況・解説者にも混乱が起こったためか、誤解が生じているようです。打者走者に送球が当たったときのルールについて、この事例をもとに確認してみましょう。
まずはハイライト映像で事例を確認してみましょう
5回裏、1アウト三塁。打者が一塁線に強いゴロを打ちました。
一塁手の阿部が捕球し本塁へ送球しましたが、送球が一塁へ走っていた打者走者の栗原に当たり、栗原はうずくまりました。この間に三塁走者はホームイン。
三塁走者の得点は認められ、また、栗原はトレーナーとともにベンチに戻り、特に審判員からの説明もなく、2アウト走者なしで試合が再開されました。
打者走者に送球が当たったら守備妨害?
DAZNの中継の実況や解説者の方に混乱があったようで、なぜ2アウト走者なしで試合が再開になったのかがきちんと説明されていないようです。加えて打者走者の栗原がアウトになっていて、プレイを見ていた人たちは守備妨害が宣告されたのかという想像が広がったように感じられます。
栗原に送球が当たっとき、スリーフットレーンの中を走っていなかった、ファウルラインの内側(向かって左側)を走っていたから守備妨害なのではないかという意見がありましたが、残念ながらこれは正しくありません。
公認野球規則5.09(a) 打者アウト
打者は、次の場合、アウトとなる。(11) 一塁に対する守備が行なわれているとき、本塁一塁間の後半を走るに際して、打者がスリーフットラインの外側(向かって右側)またはファウルラインの内側(向かって左側)を走って、一塁への送球を捕らえようとする野手の動作を妨げたと審判員が認めた場合。この際は、ボールデッドとなる。
ただし、打球を処理する野手を避けるために、スリーフットラインの外側(向かって右側)またはファウルラインの内側(向かって左側)を走ることはさしつかえない。【原注】 スリーフットレーンを示すラインはそのレーンの一部であり、打者走者は両足をスリーフットレーンの中もしくはスリーフットレーンのライン上に置かなければならない。
打者走者がスリーフットレーンの中を走塁していなかった場合に送球の妨げになったら守備妨害、というルールは、一塁に対する守備についてのみ適用されるルールです。
今回は一塁手からのバックホーム送球が栗原に当たっているので、スリーフットレーンを走っていたかどうかは関係ありません。

また、一般に、走者に送球が当たっても、それだけで直ちに守備妨害が宣告されることはありません。走者が送球に触れた場合で守備妨害が宣告されるのは、故意に送球を妨げたと審判員が判断した場合です。
公認野球規則6.01(a) 打者または走者の妨害
次の場合は、打者または走者によるインターフェアとなる。(10) 走者が打球を処理しようとしている野手を避けなかったか、あるいは送球を故意に妨げた場合。
インターフェアに対するペナルティ
走者はアウトになりボールデッドとなる。
審判員が、打者、打者走者または走者に妨害によるアウトを宣告した場合には、他のすべての走者は、妨害発生の瞬間にすでに占有していたと審判員が判断する塁まで戻らなければならない。ただし、本規則で別に規定した場合を除く。
打者走者が一塁に到達しないうちに妨害が発生したときは、すべての走者は投手の投球当時占有していた塁に戻らなければならない。
記載の通り、この場合のペナルティは、当該走者がアウトとなってボールデッドになります。また、打者走者が一塁に到達しないうちに妨害が発生したときは、すべての走者は投手の投球当時占有していた塁に戻らなければなりません。
よって、もし本当にこの事例が守備妨害であるなら、三塁走者は三塁に戻されるはずです。しかし、三塁走者の得点は認められています。
では、何が起こったのでしょうか。
中継映像に映ってはいないけれど、想像するに……
先ほども書いた通り、一般に、走者に送球が当たっても、それだけで直ちに守備妨害が宣告されることはなく、そのままプレイが続けられます。

この直後の一塁周辺の様子が中継映像に映っていないので、推測でしかないのですが、まず映像に映っている球審が両手を挙げてタイムを宣告していませんから、「守備妨害」の宣告はない(故意に送球に触れたと判断していない)ことが分かります。
そうなると、プレイはそのまま継続しています。
よって、考えられるのは、打者走者に送球が当たったあと、野手が転がっているボールを拾って再度一塁に送球したか、直接一塁を踏むかして、打者走者を普通に一塁でアウトにしたということです。
その証拠に、ハイライトの中で実況の方が「栗原のファーストゴロの間の打点」と説明しています。
ただ、その瞬間の映像が確認出来ないことが残念です。とっさのことで実況も解説者も、映像を撮っているカメラマンなどの中継スタッフの方も、何が起こったのかが理解できなかったために、何を映すのが良いのかが分からずただただ痛がっている打者走者のアップにしてしまったことがこの混乱に拍車をかけてしまったように思います。
まとめ
- 打者走者がスリーフットレーンの中を走塁していなかった場合に送球の妨げになったら守備妨害、というルールは、一塁に対する守備についてのみ適用されるルールです。
- 一般に、走者に送球が当たっても、それだけで直ちに守備妨害が宣告されることはありません。走者が送球に触れた場合で守備妨害が宣告されるのは、故意に送球を妨げたと審判員が判断した場合です。
- 守備側は、打者走者に送球が当たったあと、野手が転がっているボールを拾って再度一塁に送球したか、直接一塁を踏むかして、打者走者を普通に一塁でアウトにしたと考えられます。