
今回は、2025年5月11日、オリックスvsソフトバンクで起こった事象を取り上げます。
本当ならルールの学習をするのにうってつけのいい教材になりうる事例なんですが、何と球審が規則適用を誤ってしまい、しかもグラウンド上で誰もそのことに気づかなかったのか、そのまま試合が続けられてしまいました。
本来はどうなるのか、公認野球規則の規定に基づいて解説します。
- どんなシーン?
- ファウルチップとは
- ファウルチップの定義は2021年に変わっている!
- では、今回の場合は……?
- これは誤審とは言わず、規則適用の誤りです
- 適用するルールが正しければ、こういうことも起こりえた
どんなシーン?
2025年5月11日のオリックスvsソフトバンクで、2回裏無死二塁。オリックスの頓宮裕真選手が2ボール2ストライクからの6球目を打ち、打球は鋭くソフトバンクの捕手 嶺井博希選手のマスクに直撃したあと跳ね返って高く上がりました。嶺井選手はこれをダイレクトキャッチしたのですが、判定はファウルボールとなりました。
嶺井さん笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑
— hlskcjdl (@hlskcjdl) 2025年5月11日
#sbhawks pic.twitter.com/99kAz3K3L1
ファウルチップがキャッチャーマスクを吹っ飛ばしたことが面白かったようなリアクションのポストですが、実はこのシーン、球審の福家さんがファウルボールと宣告したことが規則適用の誤りです(こういうケースは、誤審と言いません)。
ファウルチップとは
ファウルチップとは何かについては、以前当ブログで解説記事を書きました。
詳細は当時の記事を見ていただくとして、要点をまとめると、ポイントは2つ。
- バットから鋭く捕手に飛んで
- 捕手に正規に捕球されたもの
をファウルチップといいます。
ファウルチップの定義は2021年に変わっている!
実は2020年の公認野球規則までは、ファウルチップの定義は少し違っていました。
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打者の打ったボールが、鋭くバットから直接捕手の手に飛んで、正規に捕球されたもので、捕球されなかったものはファウルチップとはならない。ファウルチップはストライクであり、ボールインプレイである。前記の打球が、捕手の手またはミットに触れておれば、はね返ったものでも、捕手が地面に触れる前に捕えれば、ファウルチップとなる。 【注】チップしたボールが、捕手の手またはミット以外の用具や身体に最初に触れてからはね返ったものは、たとえ捕手が地面に触れる前に捕えても、正規の捕球ではないから、ファウルボールとなる。 |
初めに捕手の手またはミットに触れたら、はね返ったものを地面に落ちる前に捕ればファウルチップ。しかし、ミット以外のプロテクターやマスク、手以外の身体に当たってはね返ったものは、地面に落ちる前に捕ってもファウルボール。
……というのが、2020年までのルールでした。
しかし、2021年の公認野球規則改正で、次のように変わりました。
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打者の打ったボールが、鋭くバットから直接捕手の手に飛んで、正規に捕球されたもので、捕球されなかったものはファウルチップとはならない。ファウルチップはストライクであり、ボールインプレイである。前記の打球が、捕手の手またはミットに触れておれば、はね返ったものでも、捕手が地面に触れる前に捕えれば、ファウルチップとなる。 【注】チップしたボールが、捕手の手またはミット以外の用具や身体に最初に触れてからはね返ったものは、たとえ捕手が地面に触れる前に捕えても、正規の捕球ではないから、ファウルボールとなる。 |
「手」という表現や、【注】がなくなったことで、プロテクターやマスクからはね返ったものも、地面に落ちる前に捕ればファウルチップとなりました。
では、今回の場合は……?
改めて確認してみましょう。
打者の打ったボールが、鋭くバットから直接捕手に飛んで…

捕手のマスクに当たってはね返り…

捕手が地面に触れる前にボールを捕らえました。

2020年までならこれは確かにファウルボールとして扱われます。
しかし、2021年以降、これはファウルチップの定義に当てはまります。
よって、正しい判定はストライクです。ノーアウト二塁、ボールカウント2ボール2ストライクからだったので、打者はこの時点で三振でアウトになります。
これは誤審とは言わず、規則適用の誤りです
ストライクかボールか、アウトかセーフか、フェアかファウルかといったことを審判員の判断で宣告することに、事実と認識でずれがあった場合を誤審といいます。誤審は起こってほしいことではないですが、仮にあったとしてもそれもゲームの一部として受け入れなければいけないのが野球というスポーツです。
しかし、これはファウルチップをファウルボールと扱ってしまいましたので、認識のずれの問題ではなく、適用する規則を間違えています。このような「当てはめるルールを間違える」ことは、誤審とは違って、認められることではありません。
適用するルールが正しければ、こういうことも起こりえた
本来ならば1アウト二塁だったでしょうから、次の打者のショートゴロで得点は入っていなかったと考えられます。
当該球審である福家さんは、ナイスジャッジを何度もしてきた大ベテランの審判員ですので、このようなことをいうのは失礼ながら、試合に影響するミスジャッジであり、今回の規則適用の誤りについては猛省していただきたいと思います。
また、ソフトバンクの小久保監督は、球審の規則適用が誤っていることを指摘し、正しい裁定に訂正するよう要請すべきところでした。これに気づかなかったソフトバンクのベンチも、反省が必要であると思います。
ところで、二塁走者もルールを知っていれば、ボールがマスクに直撃した後高く上がっている間はボールインプレイだったので、二塁走者はこの間に三塁に進むことができました。仮に捕手がダイレクトキャッチをしても判定はストライクでボールインプレイですし、二塁に帰塁する義務もありません。
つまり、ルールを知っていれば、二塁走者の努力で1アウト三塁にすることが可能な状況でした。このことから、選手も正しくルールを知っていることはとても重要だと言えます。
一方、守備側は、二塁走者が三塁に走った場合、あえて捕球しないことでファウルボールにして、走者を戻すことができます。つまり、守備側もルールを知っていれば、捕手に向かって「捕るな!落とせ!」という声掛けをすることで進塁を阻止できました。これなら、球審の判定は正しくファウルボールになります。
審判員も選手も、ルールを正しく理解していることはとても重要です。今回の事例をきっかけに、改めてルールを学ぶことの大切さを感じてもらえたらと思います。