日本サッカー協会は、2024年5月23日、サッカー競技規則2024/25の改正について通達し、これまでトライアルだった脳震盪による交代について、正式に競技規則に記載し、オプションとして認められることとなりました。改正で発表されたルールは、これまでトライアルのときに運用していたルールと一部異なるため、注意が必要です。
2024年6月19日にJFA審判委員会がメディア向けレフェリーブリーフィングを行い、複数のメディアがその内容を紹介しています。ここでは、JFAの通達及びメディアの説明をもとに、改正後の脳震盪ルールについてまとめます。
- (振り返り)トライアル時の脳震盪による交代ルール
- 2024/25改正で導入の「脳震盪の疑いによる交代ルール」
- 競技中、選手に脳振盪の疑いが生じた場合の対応【サッカー日本代表、Jリーグ対象】
- 実例をもとにルールを確認してみましょう
(振り返り)トライアル時の脳震盪による交代ルール
IFABは、脳震盪による交代ルールについて、トライアル期間ではルール案を2つ提示し、各大会では、A案かB案のどちらかを選んで実施することができる、としていました。
A案
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B案
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2024/25改正で導入の「脳震盪の疑いによる交代ルール」
今回の改正で、「第3条-競技者」にルールが記載されることとなり、内容は、A・Bのハイブリット案ということが言えそうです。
ルールの概要
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したがって、このルール適用後、Jリーグにおいては
- 通常の選手交代:5枚
- (オプション)脳震盪による交代:1枚
- (相手が使用した場合に)追加枠の交代:1枚
と、最大で各チーム7枚の交代を行うことができるようになります。
なお、Jリーグは控え登録枠が7人なので、7枚の交代枠を使用する場合は、控えGKが出場することになるのではないかと考えます。
また、この改正で第4の審判員の負担がさらに大きくなることが懸念されます。混乱を防ぐため、佐藤隆治JFA審判マネジャーは、メディア向けレフェリーブリーフィングにおいて、交代の種類に応じて交代用紙を異なる色にするといった対策が行われる見通しを示したとのことです。
競技中、選手に脳振盪の疑いが生じた場合の対応【サッカー日本代表、Jリーグ対象】
以下は、JFAの公式サイトから引用した対応手順です。2024年6月現在、サッカー日本代表およびJリーグではこの手順に基づいて対応が行われています。
- ①競技中、選手が頭頸部を強く打ったと主審が判断した場合、主審はすみやかに当該選手のチームドクターをピッチ内に呼び、チームドクターは脳振盪が疑われるか判断をする。主審の判断、またはチームドクターからの要請を受けた主審により、ハードボードの担架を適宜ピッチに入れる。
- ②チームドクターは、当該選手に脳振盪の疑いがある場合、自分の拳を頭の上に乗せ、主審に「脳振盪の診断を始める」旨伝える。
- ③それにともない、主審は時計の計測を始め、最長3分間を診断の時間として認める。
- ④チームドクターは、脳振盪評価用紙(Pocket SCAT2)等を使用するなどし、適切な判断を行う。
- ⑤脳振盪が疑われなかった場合にはその時点で試合再開とする。3分間を超えても判断できなかった場合、主審は当該選手を一旦ピッチ外に出し、プレーを再開させ、チームドクターは引き続きピッチ外で判断を行う。
- ⑥主審は、チームドクターの許可がある場合に限り、選手が競技に復帰することを認める。
- ⑦主審は、脳振盪の判断のために使用された時間を把握し、その時間を通常のアディショナルタイムに追加する。
- ⑧脳振盪の疑いがあると判断された場合は、脳振盪の追加の交代枠を使用し、選手を1名まで交代できる。(2021年シーズンより)
試合を観戦するファン/サポーター目線で要点をまとめると、こんな感じでしょうか。
- 選手が頭頸部を強く打ったと主審が判断したら、主審はチームドクターをピッチ内に呼ぶ。
- チームドクターは、当該選手に脳振盪の疑いがある場合、主審に「脳振盪の診断を始める」旨伝える。
- 主審は、最長3分間を診断の時間として認め、チームドクターはピッチ内で判断を行う。
- 脳振盪が疑われなかった場合は、試合再開。
- 3分間を超えても判断できなかった場合は、主審は当該選手を一旦ピッチ外に出して、チームドクターは診断を継続する。
- 脳振盪の判断のために使用された時間は、アディショナルタイムに追加する。
- 脳振盪の疑いがあると判断された場合は、脳振盪の追加の交代枠を使用して、通常の交代枠とは別に1名まで交代できる。
実例をもとにルールを確認してみましょう
「Jリーグジャッジリプレイ」2022年第10回で、C大阪対磐田戦を事例に、脳震盪の疑いによる交代について解説がありました。これを例に、脳震盪による交代ルールを確認してみましょう。
家本政明氏は、番組内の解説で「IFAB(国際サッカー評議会)から、主審は、脳震盪かどうかの判断については完全にチームドクターに委ね、交代かどうかの判断に関わるな、と明確に謳われている。チームドクターが脳震盪あるいはその疑いがあると判断された場合は、オートマチックに、脳震盪による別枠での交代を認めることになっている」と説明しています。
ウェブ上で医師や大学等が紹介している資料を参照してみると、脳震盪の9割以上は発症していても意識を失っておらず、本人が脳震盪であると自覚・認識することなく引き続き運動を行うことも多いそうです。また、本人が脳震盪と自覚せぬまま運動を続けることが、繰り返し脳震盪を発症する危険を大きくすることに繋がっているそうです。
そのため、脳震盪の「疑い」がある時点で、ルールで強制的に交代させ、速やかに適切な治療を受けさせることは大切なことだと思います。
このような背景を踏まえて考えると、キムジンヒョン選手の事例において、
- 脳震盪を起こしているキムジンヒョン選手が立ち上がってプレーを続行しようとしたことも、
- キムジンヒョン選手が立ち上がったのを見て一度チームドクターがOKを出したことも、
- ゴールキックを蹴った後、肩を抑えながらキムジンヒョン選手が再び倒れたことも、
- 倒れた様子を見て、チームドクターがこのときに「脳震盪を起こしている」と判断することも、
どれもおかしくはないといえます。そして、チームドクターから「脳震盪を起こしている」と言われれば、主審は、いちいちそれに疑義を唱えることはなく、速やかに脳震盪による別枠での交代を認めることになります。
あらためて、今回の改正を受けて脳震盪による交代ルールについて、選手やコーチはもちろん、ファン・サポーターも正しく理解し、安全に配慮しながらサッカーを楽しんでほしいと思います。